*第9回研究会報告 【リンナイ旧部品センター見学会 ~若い目で見る中川運河とその未来~】
・日時:平成27年4月23日(木)17:00~18:30
・場所:リンナイ旧部品センター(名古屋市中川区広川町4丁目・ 5丁目)
・協力:リンナイ株式会社
・ゲスト:松林正之氏
<プロフィール>
ゼネコン在籍中各種土木プロジェクト担当
(社)日本プロジェクト産業協議会JAPIC主席研究員
(社)中川運河キャナルアート理事長
司会:牛島
書記:高山
【見学会開催の経緯】
今回の研究会は、名古屋の新しいアートの現場として、近年注目を集めている中川運河のほとりに位置する「リンナイ旧部品センター」での見学会となりました。日本を代表するガス器具メーカーであるリンナイ株式会社は、名古屋市中川区に本社を持ち、これまでも中川運河を中心としたアート活動を陰ながら支援してこられました。その活動の一環として、2年前から会社の使われなくなった古い部品倉庫である「リンナイ旧部品センター」を複数のアーティストに貸し出したところ、その建物内部の構造の緻密さ、それらが織りなす空間の美しさ、面白さに大きな反響があり、是非この建物を名古屋のアートパフォーマンスの発信基地として存続してほしいとの声が、多方面から挙がったとのこと。そのような意見を受けて、現在社内で建物の存続を色々な面から模索、検討しておられる最中です。
ご縁あって、この「リンナイ旧部品センター」を知った我々ですが、やはりその建物内部の素晴らしさには大変感銘を受けました。名古屋では現代的な舞台芸術作品、音楽作品を上演出来るところが非常に限られており、どの作家も常に場所を探している状態です。名古屋駅の南に位置し、運河沿いにあるこの旧部品センターが文化施設に生まれ変わることは、たくさんのアーティスト、そしてこの地域の方々にとっても有益なことではないだろうか、と研究会は考えました。しかし、古い建築物を残すには多額の資金が必要であり、更に芸術活動にそれだけの支援をするというのは、一企業としてそう簡単なことではありません。そのようなやりとりの中で、一度まだこの場所を知らないアーティストの皆さんにもここを見て頂き、意見を募ったらどうかという話が出ました。この建物の魅力・可能性について具体的な意見を集め、話を良い方向へ進める為の起爆剤にしたい。それが今回の見学会開催の経緯です。
なお、開催にあたっては、「中川運河」を名古屋のアートシーンにおけるキーワードのひとつに育て上げた立役者である、(社)中川運河キャナルアート理事長の松林正之氏にもご参加をお願いし、「リンナイ旧部品センター」を含めた中川運河沿岸エリア一帯の持つ可能性、そこでアート活動を行う意義についてお話して頂きました。かつては東洋一とさえ言われたにも関わらず、今では街中の寂しい水流でしか無かった中川運河に、大きなポテンシャルを見出し、地道な活動を続けてこられた松林氏のお話は、多くの示唆が含まれ、我々にとっても非常に刺激的なものでありました。
*今回の報告では、「リンナイ旧部品センター」の写真に加え、かつての中川運河の景色や、これまで中川運河で行われたアートイベントなどの貴重な写真が含まれた松林氏によるプレゼンテーションのスライドも、許可を頂きそのまま掲載させて頂いております。「リンナイ旧部品センター」、そして「中川運河」の可能性と魅力が、皆様にも伝わることを願っております。
【当日の進行】
(1)リンナイ旧部品センターの成り立ち及び、リンナイによる中川運河再生計画への支援について(リンナイ株式会社管理本部 広報室室長 小川拓也氏よりお話)
(2)建物内部見学
(3)プレゼンテーション
水辺から考える“なごや”の未来 〜中川運河の多面的価値向上〜
( 社団法人中川運河キャナルアート理事長
松林正之氏よりお話)
(4)意見交換及びアンケート記入
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【内容概略】
(1)リンナイ旧部品センターの成り立ち及び、リンナイによる中川運河再生計画への支援について(リンナイ株式会社管理本部 広報室室長 小川拓也氏よりお話)
・昭和53年にエネルギー事業会社の(株)ミツウロコから購入。
・ミツウロコ社員の話では、昭和34年の伊勢湾台風の時に被災したとのこと。一番古い箇所は築56年以上。
・ミツウロコでは「練炭工場」として使用していた。
・リンナイでは、昭和53年から平成25年までの35年間、部品センター(補要部品の組み立て・ストック・配送)として使用。
・部品センターとしての機能が別の場所に移転されてからは、休眠施設となっており、それ以来複数のイベントでギャラリー及び舞台として使用されている。
・長い年月の間、その時々の使用の目的に従って増築を繰り返してきたため、それぞれの年代における建築工法が1つの建物の中に同居している。この建物自体が日本の建 築の発展の歴史を示す、ひとつの貴重な資料でもある。
・リンナイは、平成24年に名古屋市・名古屋港管理組合が策定した「中川運河再生計画」の趣旨に賛同し、名古屋都市センターが実施する、中川運河沿岸「にぎわいゾーン (ささしま~長良橋)」での現代アートを軸にした文化芸術事業への寄付を実施中で ある。平成27年度は3回目となる(平成25年度から毎年1千万円、10年間、総 額1億円)。
(2)建物内部見学
(3)プレゼンテーション
水辺から考える“なごや”の未来 ~中川運河の多面的価値向上~
<社団法人中川運河キャナルアート理事長 松林正之氏よりお話>
■プレゼンテーション概要
・なごやのグランドデザイン
・中川運河の昔と今
・中川運河キャナルアートの活動
・アーティストたちを育てる中川運河 拠点がほしい
<プレゼンテーションスライド全 14枚>
(※ブラウザの拡大機能を使って頂けると、より良くご覧いただけます。)
(4)意見交換及びアンケート記入
■アンケートに記入された意見より(抜粋)
・一番広い空間(北東二階部分)が魅力的。客席と舞台を組んでほしい。観客のことを考えると水まわり、トイレ等の動線や、劇場でいうロビーにあたる場所の整備があると嬉しい。今の鉄筋を生かしたまま改築をしてほしい。その方が想像力をかきたてられます。
・工場自体に雰囲気があるので、ダンス・現代美術・現代音楽などを発表できるような可能性を感じた。ステージを4,5つ作れるとフェスティバルもできるのでは。面白いことができたらいいなと思いました。(劇団制作担当)
・器のサイズが大きいことが利点でもあり欠点とも考えられますが、美術的な表現と音楽的表現によるハイブリッドな複合的表現には大変魅力的な建物かと思います。今は具体的案はありませんが、民間の活力のパワーを感じます。特に愛知・名古屋に於いて、官の消極性を打破できるのは、純な市民活動の様に思います。(大学教員:複合アート)
・音楽の立場からすれば、劇場(コンサートホール)ではないメリットとして、仕込みにたくさんの時間をかけられることから、空間的配置を必要とする作品(ルイージ・ノーノのプロメテオのような)に向くのだろうと思います。また小さなテント(赤テント、黒テント、シルクドソレイユ)のような方法もあるかと思います。いずれにしても清掃、プラスアルファ―が必要かと思います。また、運河から倉庫へという空間的なつながりを感じることのできる仕掛けを作ると面白いかもと感じました。(大学教員:作曲家)
・サーカス等のパフォーマンスのため、二階のない天井の高い空間が使いたいと思いました。一番高い所で6mほどかと思いますが、空間が狭いため、より高く見えます。そのような場所が入口含め、3か所ありました。鉄骨が剥き出しのため、サーカス機材や、照明の設営が可能です。外部からの音や、内部別エリアの音が響いてしまうので、防音などが必要だと感じました。二階倉庫部分はもう少し減らせると、自分たちとしては使い勝手が広がります。自分たちのジャンルとしては上記のようなことを書きましたが、とても魅力的な空間で、正直手を入れず、そのまま使っていけるのが一番だと思いました。(サーカス等イベント企画会社)
・事務所のような区切られた部屋・・・響きがいいのでレコーディングに使いたい。二階の部分の響きがデッドなスペース・・・デッドさを生かして、「言葉」が映えるパフォーミング・アーツにいいのでは。アクースモニウム(スピーカーをいくつも使った電子音楽パフォーマンス)にも効果的だと思います。改装etcはせず、むしろ、今の状態を生かしたものを考えたい。アーティストとニーズがうまいことマッチするためのマネジメントが必要だと思いました。(作曲家)
(文責:高山、牛島)